「ウチは子育てでは負けていない、、、。」
父はよく言っていた。
私の家は貧乏だった。
私は小学校の低学年からマラソンを始めた。
きっかけは箱根駅伝が好きな父がある夜、走りに行った際に付いていっただけだった。
父が息を切らしてる中、子供の無邪気さも手伝って私は軽快に走っていた。
そしてそれが父に褒められた。
父が走りに行くときに、私も付いていくようになった。
走ってる様子を他の親が見てた。
親は「お子さん凄いですね」と他の親から、自分の子供が褒められることを喜んだ。
その日から私にとって夜に走りに行くのが日課になった。
また褒められた私を見て親が喜んだ。
それにより貧乏だった父は、”うちは子育てでは負けていない”と張り合う場所を見つけてしまった。
「お子さん走ってるの見ました。」
「偉いですね、毎日、、、。」
「それに比べてうちの子は、、、。」
そんな言葉を他の親から浴びることが、仕事がうまくいってない父にとっての自己肯定感をあげてくれるのだ。
味をしめた父は社交的になり、いろんな場に顔を出すようにもなっていった。
もう父は私と一緒に走ることなどなくなっていた。
貧乏でも、自分の生き方や考えを正しいと思いたい父は、とにかく”ちょっかい”を出すのが多くなっていった。
自分の子供だけじゃなく親族、そして他人の子供にまでだった。
自分の父が、親戚どころか、他人の子供にまでだす”ちょっかい”は、子供としても、もう見てられないものだった。
”ちょっかい”はもはや”有難迷惑”だった。
小学生といえど親が恥ずかしいと思う年頃と相まって、ホントにやめて欲しかった。
父は「”お子さんスゴイですね、エライですね。”と言われる親」という評価が欲しいのだ。
今の父の自尊人は何によって支えられてるかは分かっている。
「子供に時間を割いてやる親」であることで、仕事がうまくいってないこと、貧乏であることの帳尻合わせをしている。
そして子供は、親がどんな時に最高の笑顔を見せるかをよく見ている。
イジメられた子供がイジメられた事実を親になかなか言わないのは、「口止めされてる」とか「カッコ悪い」とかだけではない。
「親に悪いな」と思っている。
「迷惑かけてゴメン、、、。」と思っている。
「イジメられてゴメン、、、。」と思っている。
子供は子供で気を使っているのだ。
私は勇気を出して「マラソンやめる、、、。」と言った。
私が走ることをやめるということは、「子育てでは負けてない」という父の心の拠り所を無くすことを意味する。
「お子さん走ってるの見ました。」
「偉いですね、毎日、、、。」
「それに比べてうちの子は、、、。」
これらが無くなる。
薄っぺらい言葉であり、本気でそう思ってるわけなどないのに、父にとっては大事な「居場所」となっていた。
父は私に対して「根性なし」というレッテルを張るようになった。
地獄が始まった。
夜走ってることで、学校ではイジメはなくても”イジリ”はあった。
だからこそイジメになる前に夜走ることをやめたかった。
なのに家に帰ると「居場所」を無くした父からの”イジメ”が待っている。
それが辛く、私はまた学校が終わると、夕方から夜にかけて走りに行くことになる。
今度はやめたくても、やめられない。
この時、「他人の為に、我慢する」人生が始まった。
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「私は当時家の環境に押しつぶされて足掻いていた。父親との関係を清算するという基本的なことができないから、自分で新しく人生を切り開くエネルギーがなかった。そして若いエネルギーの使い方を知らない。だから体を痛めつけるような使い方をしてしまう。心に葛藤を抱えていると、エネルギーの持って行き方が分からない。ただ頑張って自分の体を痛めつける。人間を活動すればいいというものではない。心に葛藤を抱えていると、生きることを楽しめない。」
本書から抜粋。
ここまではっきり分かれるというのは珍しい。
だからこそ私にとっては良書なのだ。
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