744-コービー・ブライアント
王者の意地と宿敵の誇りが激突した2010年NBAファイナル
2010年のNBAは、西カンファレンスが史上類を見ない熾烈な争いを見せたシーズンとして語り継がれている。上位8チーム全てが50勝を超えるというハイレベルな競争の中で、前年王者のロサンゼルス・レイカーズはその頂点に立ち続けるために奮闘を余儀なくされた。
苦戦のシーズン:ケガに泣いたレイカーズ
レイカーズのエース、コービー・ブライアントは平均27.0得点、5.4リバウンド、5.0アシストという圧倒的な数字を残し、まさに大黒柱として君臨した。しかし、チームは順風満帆とはいかなかった。インサイドの要であるパウ・ガソルとアンドリュー・バイナムが、それぞれ17試合を欠場するという不運に見舞われる。彼らの不在はチームのインサイドディフェンスとリバウンド力を著しく低下させ、西の激戦区での戦いを厳しいものとした。
最終的にレイカーズは57勝25敗と、前年の65勝から8勝を減らす結果となった。特にシーズン終盤の11試合で7敗を喫し、不安を残したままプレーオフに突入。それでも、チームは何とか西カンファレンス首位の座を守り抜き、王者としてのプライドを示した。
西カンファレンスを制覇:サンダー、ジャズ、サンズを撃破
プレーオフに入ると、レイカーズは徐々にその本領を発揮し始める。
1回戦:オクラホマシティ・サンダー
若きケビン・デュラント率いるサンダーとの対戦は、レイカーズにとって苦しいスタートだった。しかし、経験の差を見せつけ、第6戦でサンダーを下してシリーズを制した。
2回戦:ユタ・ジャズ
続くジャズとの対戦では、ガソルとバイナムのインサイド陣が活躍。ジャズを一蹴し、カンファレンスファイナルへ駒を進める。
カンファレンスファイナル:フェニックス・サンズ
カンファレンスファイナルでは、サンズのスティーブ・ナッシュとアマレ・スタウダマイアーを中心とした猛攻を相手に、レイカーズのチーム力が光った。第6戦で決着をつけ、3年連続となるNBAファイナル進出を果たす。
イーストのダークホース:セルティックスの復活
一方、東カンファレンスではボストン・セルティックスがプレーオフで復活劇を演じた。レギュラーシーズンは安定感を欠きながらも、プレーオフではポール・ピアース、ケビン・ガーネット、レイ・アレン、ラジョン・ロンドといったビッグネームが次々と躍動。
1回戦からカンファレンスファイナルまで
オーランド・マジックやクリーブランド・キャバリアーズといった強豪を次々と撃破し、2年ぶりにNBAファイナル進出を決める。この結果、レイカーズとセルティックスという宿敵同士の対決が実現することとなった。
再び激突する名門:2年ぶり12度目の対決
レイカーズとセルティックスのファイナルでの対戦は、これが通算12回目。宿敵同士の激突に、ファンの期待は嫌でも高まる。シリーズは両チームの堅いディフェンスが光る、まさに潰し合いの様相を呈した。
第1戦から第5戦まで
試合を追うごとに熾烈さを増す戦い。第5戦ではセルティックスがホームで92-86と勝利し、シリーズを3勝2敗と優位に進めた。この時点で、セルティックスが再び王者に返り咲くのではという予想が多かった。
第6戦:レイカーズの意地
しかし、レイカーズはLAに戻った第6戦でセルティックスをわずか67点に封じる完璧なディフェンスを展開。89-67で圧勝し、勝負を最終第7戦へともつれ込ませる。
第7戦:歴史を動かした一戦
ファイナル第7戦が行われるのは、これが史上5回目。過去4回の対戦では全てセルティックスが勝利しており、レイカーズにとっては因縁の舞台だった。
勝負を決めたアーテストの一撃
試合は一進一退の攻防が続き、緊張感が支配する展開となった。76-73とレイカーズがリードする最終盤、ここで意外な伏兵が現れる。それがロン・アーテスト(後のメッタ・ワールド・ピース)だった。
この試合でシュートタッチに苦しんでいたアーテストが、勝負を決定づける3ポイントを沈める。この一発で勢いづいたレイカーズは、その後ガソルのオフェンシブリバウンドやコービーのフリースローで逃げ切り、通算16回目の優勝を手にした。
コービーの栄光とリベンジ
キャリア5度目のリーグ制覇を成し遂げたコービー・ブライアントは、2年連続でファイナルMVPを受賞。この栄光の裏には、2年前の苦い敗北があった。
コービーはシリーズを通して、ピアースが喜ぶ新聞記事をモチベーション維持のために保管していたというエピソードが語られている。その執念が実を結び、悲願のリベンジを果たした瞬間だった。
試合後、コービーは「シャックより1回多く優勝したね」と語った。その言葉には半分冗談、半分本気の感情が混じっていたのだろう。
結び
このシリーズは、レイカーズとセルティックスというNBAの歴史を彩る2つの名門が、そのプライドを懸けて激突した壮絶な戦いだった。そして、コービー・ブライアントという孤高のスーパースターが、勝利への執念でチームを頂点へ導いた瞬間でもある。2010年ファイナルは、まさにバスケットボール史に刻まれる名シリーズだった。
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