47-カーメロ・アンソニー
カーメロ・アンソニー――孤高のスコアラー、その真価を問う
コービーが一目置いた“1on1の猛者”
「守るのが一番難しい選手の一人だ」
かつてコービー・ブライアントがそう語った男がいる。それがカーメロ・アンソニーだ。
派手なハイライトや超人的な身体能力が脚光を浴びることの多いNBAにおいて、カーメロはあくまで“技巧”で勝負してきた。スピードや跳躍力で圧倒するわけではない。だが、彼の1on1は芸術的だった。
ジャブステップ、フェイク、フェイドアウェイ、ポストムーブ…
その全てにおいて完成度が高く、どれか一つを止めても、別の武器で仕留められる。
つまり“バリエーション”こそが、カーメロの最大の強みだった。
ポストアップの職人芸
スモールフォワードとしては屈強な体格を持っていたカーメロは、ペリメーターからだけでなく、ポストアップからの得点も得意だった。特にミッドポストでボールをもらい、軽く背中を押し込んだ後のフェイドアウェイは、誰もが一度は見たことがあるはずだ。
このプレーは、ジョーダンやコービーといった偉大なスコアラーたちが愛用していたが、カーメロもそれに匹敵するほどのスムーズさと高精度を持っていた。
そして何より特徴的だったのは、彼のポストムーブに“急がなさ”があったこと。
じっくりと相手を観察し、タイミングを見極め、身体の重心を一瞬で切り替えることで相手をかわす。
速さではなく“間合い”で勝つ――これがカーメロの真骨頂だ。
ジャブステップとフットワークの魔術
ジャブステップだけでディフェンダーを翻弄する選手は多くない。
だがカーメロは、その一歩で相手のバランスを崩し、ショットやドライブへと持ち込む術を熟知していた。
そのジャブのリズムは独特で、1、2と刻んだと思ったらいきなり3でステップバックしてジャンパーを放つ。
ドライブのスピード自体はリーグでもトップクラスとは言えなかったが、タイミングと角度、そしてボディコントロールで補っていた。フィニッシュでは体をしっかりと寄せてコンタクトをもらいながらも、確実にリングに沈めるテクニック。これがカーメロの持つ“柔と剛”の融合だった。
クラッチタイムにこそ輝くメンタルタフネス
どれだけスキルを持っていても、肝心のクラッチタイムで躊躇してしまえば意味がない。
その点、カーメロ・アンソニーは勝負どころに強かった。
タイムが止まり、観客が息を呑む中でも、表情一つ変えずに自分のリズムでシュートを放つ。
「俺が撃つ。俺が決める。」
そういう意思が全身からにじみ出ていた。
彼のキャリアを通じて、クラッチでのシュート成功率は高水準を維持していた。もちろん全てを決めるわけじゃない。だが、決める確率以上に“撃つことを躊躇しない”姿勢が、チームメイトからの信頼を集めていたのは間違いない。
“世界のエース”としての顔も持つ男
2008年の北京五輪、2012年のロンドン五輪、そして2016年のリオ五輪。
この三大会でアメリカ代表の主軸として活躍したのがカーメロだった。
NBAではエース級の選手が揃っていたが、その中でも“得点源”として最も機能していたのがカーメロであり、「FIBAルールが最も似合うアメリカ人選手」とも評され、ピック&ポップやポストでの対応力、そしてスリーの正確性を武器に、インターナショナルゲームで爆発した。
アメリカ代表史上最多の代表得点を誇っていた時期もあり、まさに“USA代表の顔”とも言える存在だった。
リングがない=失敗作、ではない
だが――彼には“チャンピオンリング”がない。
この一点が、カーメロのキャリアに影を落としているのも事実だ。
ナゲッツ時代、チームをウェスト決勝まで導いたことはある。ニックスでは長らく孤軍奮闘し、得点王にも輝いた。
レイカーズやブレイザーズではベテランとしてベンチからチームを支えた。
けれど、どのステージでも頂点には手が届かなかった。
それでもカーメロは言う。
「気にはしていない。すべてがうまくいけば、いずれ正当な評価を得られる」
この言葉が、カーメロのすべてを物語っている。
勝利やチームワークを否定するわけではない。だが、彼のバスケは“自分の美学を貫く”ものであり、それこそが彼の存在意義だった。
最後に――“孤高のスコアラー”を忘れるな
カーメロ・アンソニーを語るとき、「リングがないから…」「晩年は…」という評価が先行しがちだ。だがそれはあまりに浅い。
彼の得点は、爆発力ではなく“積み重ね”であり、目立たぬ技巧にこそ価値があった。
そしてそのスタイルをキャリアを通して一貫して貫いたこと自体が、最大の美学だった。
1on1で最も止めづらい選手は誰か。
そう聞かれたとき、答えの中に必ず入れるべき男――それがカーメロ・アンソニーだ。
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