31-デロン・ウィリアムズ
得点もアシストも一級品だった正統派PG
―ピック&ロールの職人・デロン・ウィリアムスの凄み―
2000年代後半から2010年代前半にかけて、「最も完成されたポイントガードは誰だ?」という議論で、クリス・ポールやスティーブ・ナッシュと並んで必ず名前が挙がっていた男がいた。デロン・ウィリアムス。
派手さはない。でも、全ての要素を高水準で兼ね備えた“正統派”でありながら、“異常値のスコアリング能力”まで持ち合わせていた稀有な存在だ。
スコアラーであり司令塔、それがデロン・ウィリアムス
「パスが上手いだけのPG」ではなかった。
「点だけ取るコンボガード」でもなかった。
デロン・ウィリアムスは、完璧な司令塔であると同時に、攻撃の起点としても終点としても機能した男だ。
アシストはキャリア平均6.5本。最盛期のユタ・ジャズ時代(2007-2010)は10アシスト前後を記録し続けていた。にもかかわらず、得点能力も極めて高い。キャリア平均17.3得点、ユタ時代は20点近くをコンスタントに稼いでいた。
しかもこの得点は、ただのアウトサイドシュートやトランジションで稼いだものじゃない。
真骨頂はピック&ロール、そして自らの創造力で作り出すハーフコートオフェンスの中にあった。
左サイドで輝くピック&ロールの職人芸
デロンの攻撃パターンを語るなら、まずピック&ロールは外せない。特にこだわっていたのは「左サイドからのピック&ロール」。
利き手は右だが、彼は左サイドでの攻撃を好んだ。ドリブルを左に預けながらスクリーンを使い、逆サイドのスペースを最大限に活かす。ディフェンスのズレを読み取りながら、最適解を選び続けるそのプレースタイルは、まさに“職人”。
スクリーンを使ったあとの選択肢が豊富なのも彼の強みだった。
- スクリーンの後、すぐにジャンプシュート
- ビッグマンが下がればプルアップ
- ディフェンスが出てきたら、ロブでのアシスト
- 相手ビッグマンと1on1になればドライブで突破
このすべてを「迷いなく」選べたのがデロンの強み。状況判断に優れ、フィジカルに優れ、スキルに優れた男にとって、ピック&ロールは支配するための装置だった。
フィジカルで押し切るドライブ、強靭なボディバランス
デロン・ウィリアムスをただの“技巧派”だと思ったら痛い目に遭う。
実はめちゃくちゃパワフルだった。
体格は190cm前後で体重は95kg超。サイズ的にはPGとして大柄で、身体の強さはトップクラス。スクリーンを使ってギャップを作ったあとのドライブは、軽量ガードでは止めようがなかった。
ドライブ中の当たりの強さ、そして接触を受けながらも体勢を崩さずに打てるボディバランス。これがあるからこそ、タフショットでも高確率で沈められた。
さらにはスピードは並でも、ストップ&ゴーの緩急、フェイントの巧みさでディフェンスを崩していた。
ジャンプシュートも上質、プルアップの武器化
ペネトレーションが強力なのに加えて、ジャンプシュートも上手かった。
ピックを使った後のプルアップジャンパー、つまりドリブルからの急停止ジャンプショットは彼の武器のひとつだった。
特に3Pラインの少し内側、いわゆる「ロング2」のエリアが得意。ミドルレンジを高確率で沈める技術は、ディフェンスを下がらせる要因になり、結果的にドライブも活きてくる。
オフ・ザ・ボールでのシュートはそこまで多くなかったが、ボールを持った状態でのシュートはリーグ屈指。だからこそ彼を止めるには、ピックの段階で完璧に抑えなければならなかった。
必殺のクロスオーバーとクラッチタイムの顔
クラッチタイムになると、デロン・ウィリアムスの“必殺技”が発動する。
それが「右から左へのクロスオーバー」。
スピードはリーグ平均レベルだったが、このクロスオーバーの“振り幅”がとにかくデカい。しかも低い位置で鋭く、一瞬で相手の重心をズラす。
これによって、相手DFがバランスを崩した瞬間にドライブもできるし、スペースができたら即ジャンプシュートに持ち込む。クラッチの時間帯で何度もこのムーブでディフェンダーを沈めてきた。
しかも、打てるだけじゃない。クラッチアシストも多く、終盤でも冷静にディシジョンを下せるIQとメンタルを持っていたのも彼の魅力。
時代が変わる前に輝いた「正統派PG」の完成形
今のNBAでは、「スコアリング型の大型PG」や「万能型のポジションレスガード」が主流だ。だが、デロン・ウィリアムスが活躍していた時代はまだ“正統派PG”が王道だった。
チームを操り、攻撃を構築し、自らもフィニッシュに参加する。そのすべてを高いレベルでこなす司令塔。その最先端にいたのがデロンだった。
スコアリング能力だけでも通用しただろうし、パッシング能力だけでも一流だった。だが、彼はどちらか一方に偏ることなく、すべてのバランスを高水準でキープし続けていた。
輝き続けたキャリアと、少し惜しかった晩年
ユタ・ジャズ時代、彼はリーグ屈指のポイントガードだった。
だが、その後はブルックリンでの大型契約や度重なる怪我、チーム状況の変化により、晩年はややフェードアウト気味だったのも事実。
それでも、最盛期のパフォーマンスだけで見れば、当時のPGではトップ3に入るレベルだった。
クリス・ポール、スティーブ・ナッシュ、デロン・ウィリアムス――この3人の名前が並ぶのが、2000年代後半のPG事情だった。
まとめ:忘れてはいけない正統派の真価
今ではあまり語られなくなったが、デロン・ウィリアムスは間違いなく“本物の司令塔”だった。
スコアラーとしての破壊力。ピック&ロールの完成度。パサーとしての視野と技術。そしてクラッチタイムでの冷静さと勝負強さ。
正統派でありながらも、得点力を兼ね備えた彼のプレースタイルが持っていたバランスと凄みは、今でも多くのガードにとって理想像のひとつになっている。
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