NBAポスターコラム151:あの頃のスーパースターWESTからスティーブ・ナッシュをピック。

NBAポスターコラム

151-NBAスーパースターズ・ウエスト

スティーブ・ナッシュ──“美しい攻撃”を設計した男


■ 早すぎた天才、控えに甘んじた日々

スティーブ・ナッシュは、1996年ドラフトでサンズに指名された。だが当時のチームには、ジェイソン・キッドとケビン・ジョンソンという超一流PGがいた。NBAでも屈指の司令塔を2人抱える環境のなかで、ナッシュは控えとしてわずかな出場時間に限られていた。

しかし、彼のポテンシャルを見抜く者もいた。小柄で非力に見える身体に、確かなシュートフォームと判断力、そして何より“ゲームを読む目”を持っていた。だがデビュー当初のサンズでは、スピードとフィジカルの激しいNBAに適応できず、ファンからは「なぜ彼を指名したのか」という声さえあがっていた。


■ ダラスでの覚醒──ダークとの化学反応

1998年、ナッシュはマーベリックスにトレードされる。この移籍がキャリアの転機となる。チームには同世代の“ダーク・ノヴィツキー”がいた。異国出身の2人はすぐに意気投合し、互いを理解し合う関係を築く。
当時のマブスは長く低迷していたが、ナッシュの加入により攻撃は一変。ピック&ポップでのダークとの連携、ファーストブレイクでの判断、そして正確無比な3Pがチームの新しい武器になった。

1999-2000シーズン以降、ナッシュは平均15得点・7アシストを超える数字を残し、チームは次第にプレーオフ常連へと変貌していく。マーク・キューバン新オーナーのもと、攻撃重視のバスケが開花していった。


■ サンズ復帰──“7秒オフェンス”の象徴へ

2004年、ナッシュはFAで古巣サンズに戻る。マイク・ダントーニが率いるチームは、“走って撃つ”革命的バスケットを目指していた。ナッシュはその中心に据えられる。

復帰初年度、サンズは前季の29勝から一気に62勝へ。リーグトップの勝率を記録した。この劇的な飛躍を支えたのが、ナッシュのスピードと視野、そして判断力だった。
“7 seconds or less”──7秒以内にシュートまで持ち込む超高速オフェンス。その設計者こそナッシュだった。

アマレ・スタウダマイアーの爆発力、ショーン・マリオンの走力、クウェンティン・リチャードソンやジョー・ジョンソンのアウトサイド。ナッシュはこれらの個性を自在に操り、1試合あたり11.5アシストを記録。自身初のMVPに輝く。


■ 完璧に見えて“優勝だけ”が足りなかった男

ナッシュは翌2005-06シーズンにもMVPを受賞。2年連続の快挙だった。得点だけでなく、試合の流れを変えるパス、テンポのコントロール、そしてリーダーシップが評価された。

しかし彼のキャリアには、最後まで「優勝」がなかった。2007年のスパーズ戦では、アマレとボリス・ディアウの退場という不運もあり、ファイナル進出を逃す。
誰もが「ナッシュにリングを」と願ったが、その夢は叶わなかった。

ただし、勝敗以上にナッシュが残したものは大きい。彼が体現した“ボールが生きるバスケット”は、後のNBAの方向性を変えた。ボールムーブメント重視のオフェンス、ストレッチ・ビッグの活用、テンポを上げる速攻──すべてが今のNBAの基礎になっている。


■ ナッシュが教えてくれた「バスケの美学」

ナッシュはPGというポジションを“芸術”に変えた。速さよりも判断、力よりも知性。
ファーストブレイクで走るとき、彼の目は常に5人すべてを見ている。ディフェンダーが一瞬視線を外せば、ナッシュのパスはその隙を突いて味方の手に届く。
彼の動きには“偶然”がなく、すべてが設計されていた。

試合後、ナッシュは必ずビデオを見返し、自分の判断の良否を分析した。華麗なプレーの裏には、緻密な思考があった。
彼は言った。「パスはリズムとタイミングだ。相手の動きを感じ取って、自分のリズムを預ける。」


■ 現代バスケへの影響──“ナッシュの遺伝子”を継ぐ者たち

ナッシュの哲学は、その後のNBAの流れに深く刻まれている。
ステフィン・カリーの3P中心の攻撃、ルカ・ドンチッチのコントロール力、そしてトレイ・ヤングのピック活用。
いずれも「ナッシュ型PG」の進化形だ。
彼らがナッシュの映像を見て育った世代であることは、決して偶然ではない。

また、ヘッドコーチとしてのナッシュも注目を浴びた。ブルックリン・ネッツではケビン・デュラントやカイリー・アービングを率い、チームバスケを試みたが、スター間の不調和に苦しんだ。それでも、彼の“攻撃美学”は選手たちに影響を与えた。


■ 結論──ナッシュが変えた「PGの定義」

ナッシュが登場する前、PGは「得点を抑えて味方に配る司令塔」として見られていた。
だがナッシュはその枠を壊した。自ら得点し、試合のテンポを作り、そして誰よりもチームを楽しくさせる存在。
彼のプレーには「勝つため」だけでなく「観る者を魅了する」哲学があった。

2年連続MVP、5度のアシスト王。だが数字では語れないのがスティーブ・ナッシュだ。
彼が残したのは、バスケットボールそのものの“美しさ”──
今のNBAが“パスで魅せる”方向へ進んだのは、間違いなくナッシュがいたからだ。

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