73-ドワイト・ハワード
最後の古典的スターセンター、ドワイト・ハワードという象徴
肉体の暴力、支配力の象徴
2000年代後半から2010年代前半にかけて、NBAのペイントエリアに“怪物”がいた。その名はドワイト・ハワード。身長211cm、体重120kg超、ウィングスパン218cmという巨体にして、跳躍力は垂直で100cm近くを誇った。いわば、人間離れした肉体に、スピードと反射神経を兼ね備えたバケモノ。
ディフェンスのアンカーとして、リング下を制圧。ペリメーターからドライブインしようものなら、たちまち巨大な壁に突き当たる。ハワードのブロックはただの数字じゃない。敵の意欲そのものを打ち砕く威圧感があった。
それはもう、存在自体が抑止力。コート上にハワードがいるだけで、相手はドライブを躊躇する。チーム全体の守備に安定感をもたらし、さらにリバウンドで圧倒する。彼のキャリアで計5回もリバウンド王に輝いている事実が、その支配力の証明だ。
4アウト1インの完成形
2008〜2012年頃のオーランド・マジックは、いわゆる「4アウト1イン」システムの象徴的チームだった。アウトサイドにラシード・ルイス、ヒィデット・ターコルー、JJ・レディック、ジャミーア・ネルソンなどのシューターを配置し、インサイドにはハワード。彼にダブルチームが行けば即キックアウト、行かなければ豪快なポストムーブで得点、あるいはファウルを誘う。
このシステムが極まったのが2009年のカンファレンスファイナル。相手はレブロン率いるキャバリアーズ。常にハワードのダブルチームに苦しみ、外からの攻撃を止められず、シリーズは4勝2敗でマジックが勝利。シャック、ヤオミン、ダンカン、KGといった大物が年を取り、スモールボールの波が押し寄せる直前――「最後のビッグマンの時代」を象徴するシリーズだった。
“ゲームが変わる前”の絶対的存在
今のNBAを見ていると、センターもスリーを打ち、ドリブルでクリエイトし、スイッチディフェンスに耐えなければならない。が、ハワードが猛威を振るった時代はそうじゃなかった。
彼はピック&ロールのロールマンとして、またポストの主軸として、ゴールに背を向けて戦っていた。そこには技巧よりも力。シュートタッチよりも身体能力。まさに“古典的スターセンター”の最終形。
ハワードはフックやターンアラウンドなどの技巧を磨いたが、結局のところ最大の武器は「上から叩き込む」パワーだった。バックダウンして、身体を当てて、スペースを無理やりこじ開ける。パワー、リーチ、ジャンプ力で押し切る。
今では消えつつあるそのプレースタイルを、彼は堂々と体現していた。
キャリア後半の転落とジャーニーマン時代
ただし、その古さこそが時代に置いていかれる要因でもあった。2012年にレイカーズへ移籍後、怪我とケミストリー問題で評価を下げたハワードは、そこからキャリアが下降線をたどる。ヒューストンではハーデンとの共存が崩れ、アトランタ、シャーロット、ワシントン…と1年ごとにチームを転々とする“ジャーニーマン”となる。
そこにあるのは時代の転換だった。ヨキッチ、エンビード、タウンズといった新時代のセンターたちは、器用でありシュートレンジも広く、ビジョンと判断力を兼ね備えている。ハワードはそれらの要素を備えていなかった。
ゲームが変わったのだ。ハワードはその象徴だった。
それでも蘇った2020年のリング
だが、誰もが彼を終わった選手と思っていた頃、再びレイカーズへ。今度は「主役ではないロールプレイヤー」として、チームにフィットした。
2020年、バブル開催のプレイオフ。レイカーズはADとレブロンを軸に躍進するが、その裏でハワードはリム周辺の守備、フィジカル、メンタルの強さを発揮。
ついに、悲願のNBAチャンピオンリングを手にした。
フランチャイズプレイヤーからジャーニーマンを経て、最終的にロールプレイヤーとしてリングを掴む。そこには、スター選手としてのプライドを捨ててでもチームに尽くす覚悟があった。
リバウンドという“本能”の支配者
ハワードの全盛期におけるリバウンドは異次元だった。ポジショニング、読み、バウンドの角度――そんなものを超越するほどの身体能力。空中戦での圧倒的な勝率。こぼれ球に対して、ただ一人、爆発的に飛び込んでくる姿は、もはや“本能”で動いているようだった。
オフェンスリバウンドからのダンク、ディフェンスリバウンドからの速攻起点。すべての場面で、彼のリバウンドはチームを支えた。
最後に
ドワイト・ハワードという選手を通して、NBAの進化を振り返ることができる。
“ザ・センター”というポジションが輝いていた最後の時代。その中心にいたのが彼だった。
そして、ゲームが変わったあとの世界で、再び自らの役割を見出し、リングを手にした。
彼のキャリアは、ただの数字やタイトルじゃ測れない。時代を跨いだ象徴であり、誇り高きセンターという存在の、最後の証明だった――
今なお、彼のダンクが、ブロックが、ペイントを支配した姿が、ファンの脳裏に焼きついている限り、ドワイト・ハワードという名は忘れ去られないだろう。
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