NBAポスターコラム58:アテネで崩れ、日本で失墜した王者が見た光、、、北京にすべてを懸けた理由とは?

NBAポスターコラム

58-チームUSA2007

「チームUSAは倒せる」からの逆襲


アテネで見えた限界、「負けるアメリカ」の始まり

2004年、アテネオリンピック。
アメリカ代表は3位に終わり、金メダルを逃した。これは単なる敗北じゃなく、世界のバスケットボール界にとって“シグナル”だった。

「アメリカはもはや無敵じゃない」

当時のロスターには若きレブロン・ジェームズ、カーメロ・アンソニー、ドウェイン・ウェイドなどフレッシュな才能が揃っていたが、チームとしての完成度は低く、試合中の連携にもズレがあった。加えて、ルールの違いや国際審判への対応も不十分だった。対する世界の国々は、NBAでの経験値を着実に積んできた選手を軸に、チームとしての成熟度を高めていた。

アテネでアメリカを破ったのは、プエルトリコ、リトアニア、そして最終的に金メダルを獲得したアルゼンチン。これらの国々は個人能力ではアメリカに及ばなかったかもしれないが、戦術と結束力では一枚上手だった。


そして日本開催FIBAでもまたも3位

アテネの悪夢から2年後。
2006年、FIBAバスケットボール世界選手権(現・ワールドカップ)が日本で開催され、アメリカは再び王座を狙う。だが結果はまたしても3位。準決勝でギリシャに敗れ、優勝を逃した。

ギリシャはスローなテンポと組織化されたピック&ロールを軸に、アメリカのディフェンスを翻弄。アメリカは個の力で押し切ろうとするも、それが裏目に出た。

この結果、アメリカは「即席の才能集合体」ではもはや勝てないことを痛感する。以後、USAバスケットボールは根本的な改革を迫られることになる。


コアメンバー構築と”3年計画”

2005年、USAバスケットボールはマイク・シャシェフスキー(通称コーチK)を新ヘッドコーチに任命する。デューク大を長年率いた名将で、戦術だけでなく精神的リーダーシップも兼ね備えた存在だった。

コーチKのもとで掲げられたのが、「3年計画」だ。
五輪の直前にだけ寄せ集めるのではなく、複数年にわたって代表メンバーを固定し、FIBAルールに慣れ、国際戦の感覚を養っていく。まさに「チーム」をつくる発想に切り替えたわけだ。

ここで重要だったのが、若手スターたちを中心に据えつつも、経験と役割に長けたベテランやロールプレーヤーを加えるという編成方針だった。


ベテランの復帰──ジェイソン・キッドの意味

代表における「勝ち方」を知る人間が必要だ。そう考えたUSAバスケットボールは、2000年シドニー五輪の金メダリストであるジェイソン・キッドを代表に復帰させる。

キッドはもはやキャリア後半に差し掛かっていたが、パス能力、ゲームコントロール、ディフェンスの読み、そして何より勝者のメンタリティがチームに必要とされた。

彼は得点ではなく、「試合を整える」ために選ばれた。ボールを保持しすぎがちな若手スターたちのプレーを円滑に回す潤滑油となり、試合のリズムを支配することで、チームを安定させた。


黒子役の重要性──テイショーン・プリンスの起用

もう一人、北京五輪のチームで象徴的な存在が、テイショーン・プリンスだ。

当時の彼はピストンズで堅実なディフェンダーとして知られ、派手さはなかったが、泥臭い役割をいとわない選手だった。ロールプレーヤーとして、ディフェンスとオフボールの動きに徹し、チームのバランスを保つ役割を担った。

彼のような選手を選ぶという事実そのものが、「アメリカが変わった」証だった。かつてのようにスターばかりを揃えるのではなく、役割と相性を重視する方向に舵を切ったわけだ。


世界の成長と、アメリカの危機感

ここで無視できないのが、NBAのグローバル化だ。

90年代後半〜2000年代前半にかけて、NBAにはヨーロッパや南米からの優秀なプレイヤーが次々と台頭。ノビツキー、ジノビリ、パウ・ガソル、トニー・パーカー…
彼らはNBAのスピードとフィジカルに適応し、かつ母国代表では中心として活躍していた。

つまり、世界のバスケは“アメリカ化”しつつあり、アメリカは“世界化”に対応できていなかった。

国際ルールへの理解不足、ゾーンディフェンスへの対応力の欠如、外角シュートの精度不足…。アメリカは世界に追いつかれたのではない。むしろ、世界がアメリカを研究し尽くし、逆にアメリカは過信していたのだ。


北京五輪へ、ついに結集する“Redeem Team”

2008年の北京五輪。この大会でアメリカが掲げたテーマは「Redeem(名誉回復)」。

メンバーにはコービー・ブライアント、レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、カーメロ・アンソニー、クリス・ポール、デロン・ウィリアムスといったタレントが並ぶ。だが、アテネと違うのは「覚悟」と「役割理解」の有無だった。

コービーがディフェンスとリーダーシップを買われてチームに合流し、最終戦ではスペイン相手に鬼気迫る守備を見せた。ウェイドはベンチスタートながら、得点源として爆発。レブロンやカーメロもパスとリバウンドに徹する場面が増え、全員が「勝つために、自分のプレーを変えた」。

そして、アメリカは見事に金メダルを獲得。
「ドリームチーム」ではなく、「Redeem Team」としての名誉回復は果たされた。


「世界に勝つためのアメリカ」は続くか?

2008年以降も、アメリカ代表は基本的にこの“チームビルディング路線”を継続してきた。だが、近年は再びほころびが見え始めている。

短期間で寄せ集められたスター軍団が連携不足で敗退するケースもあり、FIBAワールドカップ2023ではドイツやカナダに敗れ、再び「倒せるアメリカ」となりつつある。

歴史は繰り返す。

北京での成功は、徹底したチーム作り、ベテランの起用、黒子役の評価が揃ったからこそ成り立った。単なるスーパースターの集まりでは、もう世界に勝てない。これはアテネの教訓でもあったはずだ。


最後に──「勝つために、変わる覚悟」があるか?

アメリカは今後も、世界最強の選手層を持ち続けるだろう。ただし、それは「勝てる保証」ではない。
「スターを並べたから勝てる」という思考から脱却し、「勝つために必要な構成と役割を考える」こと。
北京で得た成功は、その原点に立ち返ったことによって生まれたものだった。

チームUSAの真の強さとは、“変化できる柔軟性”にあるのかもしれない――。

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