17-カワイ・レナード
寡黙な男、カワイ・レナードとスパーズというカルチャー
長い腕、大きな手、執拗なディフェンス
カワイ・レナード。この男の名前を聞けば、多くのNBAファンはまず「ディフェンス」を思い浮かべるだろう。2度のDPOY(最優秀守備選手賞)を受賞し、2014年のファイナルMVPも獲得した、静かで、だが誰よりも厄介なディフェンダーだ。
彼のディフェンスの特徴は明確だ。まず、ウイングスパンが213cmある長い腕。そして、相手の心を読むかのような読みの鋭さ。何より凄まじいのは、その執念深さ。絶対にワンプレーで終わらない。手を出し、体を寄せ、相手が諦めるまで守り抜く。
この姿勢は、かつてスパーズに在籍したブルース・ボーエンを思い出させる。ボーエンはシューズのつま先をギリギリでスリーラインに合わせ、相手のスタースコアラーに張りつくように守る、職人のようなディフェンダーだった。カワイはその系譜に連なる存在。だが、カワイはボーエン以上に身体能力が高く、スティール能力やリバウンド力も圧倒的だった。
スパーズのカルチャーが育てた男
カワイがNBAに入ったのは2011年。インディアナ・ペイサーズにドラフトされたが、すぐにサンアントニオ・スパーズへトレードされた。スパーズが送り出したのは、当時すでに優秀なガードとして評価されていたジョージ・ヒル。ポポビッチHCとR.C.ビュフォードGMは、それだけの価値をカワイに見出していた。
スパーズといえば、ティム・ダンカン、トニー・パーカー、マヌ・ジノビリという「ビッグスリー」で知られていた。そして、それを支えるポポビッチの厳格だが理知的なコーチング。この組織にカワイは静かにフィットしていく。口数は少なく、プレーで語るスタイル。練習では黙々と自分の役割をこなす。ポポビッチが好む「自己犠牲」「規律」「謙虚さ」を体現した存在だった。
優勝への階段とカワイの進化
2014年のNBAファイナル。対戦相手は前年に敗れたマイアミ・ヒート。レブロン・ジェームズ、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュを擁するビッグスリーだ。このシリーズで、カワイは一気にスターダムを駆け上がる。
第1戦こそ静かだったが、第2戦以降でレブロンを守りながらも自ら得点を重ねた。第3戦では29得点、第4戦も26得点と攻守両面で躍動し、シリーズMVPに輝く。22歳という若さでのファイナルMVP。これにより、「ダンカンの後継者」としての立場が確固たるものになった。
当時のスパーズは、ダンカンが引退間近で、ジノビリやパーカーもピークを過ぎていた。世代交代の時期。しかし、カワイが中心に立ち、ラマーカス・オルドリッジなどを加えた新体制で、再び優勝を狙えると多くのファンが信じていた。
だが、その関係にヒビが入る
2017年、スパーズはカワイを中心に好成績を残し、プレーオフでも好調だった。だが、あの出来事がすべてを変えてしまった。ウェスタン・カンファレンス・ファイナル第1戦。相手は王者ウォリアーズ。カワイがシューターのザザ・パチュリアの足を踏んで負傷。その後のシリーズを欠場し、スパーズはウォリアーズにスイープ負け。
そして問題は次のシーズン。カワイは怪我の回復が思わしくないと訴え、スパーズの医療スタッフとの意見が食い違い、試合出場を拒否するようになる。チームは「復帰可能」と判断していたが、カワイとそのチーム(特に彼の叔父)がそれを信用していなかった。
カワイは完全に心を閉ざし、チームの遠征にも帯同しなくなった。あれほど理想的だったスパーズとの関係は、もう修復不可能なところまで壊れていた。
トレード、そして別れ
2018年、ついにスパーズは決断する。トロント・ラプターズへのトレード。相手はデマー・デローザン。カワイの価値を考えれば見合わない取引にも見えたが、チームの雰囲気をこれ以上悪化させないための判断だった。
こうして、静かに、だが衝撃的に、スパーズとカワイは決別した。
「あのままいれば」は無意味か?
多くのファンが思ったはずだ。「あのままスパーズにいれば…」。ダンカンが引退しても、ジノビリとパーカーが去っても、カワイがいれば再建は早かった。ポポビッチも彼を中心に新たなチームを組み立てようとしていた。
事実、ラプターズでの優勝(2019年)を見れば、カワイがどれだけ勝利を引き寄せる選手かがわかる。もしスパーズで健康を維持し、周囲と信頼関係を築けていれば…そう思うのも無理はない。
だが、それは「もしも」の世界だ。実際のNBAは感情もビジネスも絡む現実だ。選手もチームも感情を抑えきれなかった。だからこそ別れは訪れた。
それでもカルチャーは残る
カワイが去って数年が経つ。スパーズはしばらく低迷期に入り、プレーオフから遠ざかった。だが、ドラフトでビクター・ウェンバンヤマというスーパールーキーを手に入れた今、再び注目を集めている。
ポポビッチは今も変わらずチームを率いており、そのバスケ哲学は脈々と受け継がれている。規律を重んじ、自己犠牲を美徳とするカルチャー。そこに、カワイのような選手がまた現れるかもしれない。いや、むしろこのカルチャーがある限り、自然とそういう選手を生み出していくだろう。
寡黙な男が残したもの
スパーズとカワイの関係は、完璧な結末とは言えなかった。だが、その数年間で築かれたディフェンスの美学、プロフェッショナリズム、そして勝利への姿勢は、今も多くのファンの記憶に残っている。
カワイ・レナードという選手は、言葉ではなくプレーで語る男だった。スパーズという静かなる王国の象徴として、一瞬の輝きを放ち、そして去っていった。その姿は、きっとこれからも語り継がれていくはずだ。
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