67-クリス・ポール
「サイズは壁じゃない」──クリス・ポールが新人王にふさわしかった理由
小さな司令塔が切り拓いた未来
2005年、NBAに1人の“規格外の司令塔”が現れた。身長183cm、リーグ基準では「小柄」と言われる体格ながら、まるでコートを俯瞰しているかのようにゲームを操るガード。その男こそ、クリス・ポール。
ルーキーイヤーの彼が見せたインパクトは、数字や順位だけでは語りきれない。ドラフト全体4位でニューオーリンズ・ホーネッツに加入すると、すぐさまチームの司令塔となり、当時まだ発展途上だったチームを勝たせる集団へと変貌させた。
新人王は当然の結果。だが、それ以上に“バスケットIQの高さ”と“精密なコントロール能力”でリーグ中に衝撃を与えたのが、ルーキー時代のクリス・ポールだった。
ドリブルで切り裂く、その正確性と計算力
ポールの武器は「速さ」ではない。もちろん彼はスピードがある。だが、それ以上に注目すべきは、その使い方。
彼はスピードを一定に保たず、**change of pace(緩急の使い分け)**を駆使して、相手を惑わすのがうまい。相手DFを止まらせた一瞬の隙を見逃さず、そこから一気にギアをトップまで上げる。つまり、“いつ抜くか”が完全に計算されている。
クロスオーバーもその一環。タイミング、ドリブルの位置、高さ、そしてステップの角度──すべてが計算された動き。派手なモーションや過剰なハンドリングはない。あるのは“機能美”だ。
たとえば、アイバーソンのように観客を沸かせるタイプではない。だが、1on1での勝負においては、最短距離でディフェンダーを抜き去る術を持っていた。決して無駄がない。まるでドクターが手術をするように、必要な分だけ身体を使う。それがクリス・ポールという選手。
183cmに宿る集中力とフィジカル
NBAでは183cmというサイズは、正直ハンデになることが多い。スイッチDFが基本となった近年では、特に狙われやすいサイズだ。
だが、ポールは違った。
上半身のタフネス、股関節の柔らかさ、そして低重心を活かしたドライブ。この3つをベースに、ルーキー時代からベテラン顔負けの“体の使い方”を見せていた。
相手がサイズアップして当たってきても、接触の直前で角度を変えることで衝撃を逃がす。ブロックショットを警戒しながら、シュートフォームを崩さずフィニッシュに持っていく。ルーキーでこんなプレーができる選手、当時のリーグにはほとんどいなかった。
そしてもうひとつ特筆すべきは集中力の高さ。
試合中、彼の視線は常にコート上をスキャンしている。敵味方の位置、残り時間、チームファウル数、ベンチの指示──あらゆる情報を瞬時に処理して、ベストな判断を下す。とても新人とは思えない落ち着きだった。
ゲームメイクで試合を支配する
数字で見れば、平均16.1得点、5.1リバウンド、7.8アシスト。十分すぎるスタッツだ。が、クリス・ポールの真骨頂はその“数字を超えたゲーム支配力”にある。
ホーネッツ加入当初、チームはプレーオフから遠ざかっていた。戦力的にも抜群とは言えない陣容の中で、ポールは速攻のトリガー役となり、ピック&ロールの起点となり、時にはクラッチタイムのスコアラーにもなった。
特にピック&ロールでは、ビッグマンの動き出しやディフェンスのずれを瞬時に判断し、リードパスで味方を活かすスタイルが目立った。これは後の全盛期でも進化し続けるが、ルーキー時代からその片鱗は確実にあった。
そして、試合の“呼吸”をコントロールできる選手でもあった。
相手のランが続けばペースを落とし、味方が乗っている時はボールを預けてスペーシングに回る。ルーキーながら“コーチのような視点”を持っていたのが、何よりも大きい。
ドワイト・ハワードをも凌駕した一瞬の輝き
ルーキーイヤーの象徴的な瞬間をひとつ挙げるなら、やはりドワイト・ハワード越しのダンクだろう。
当時、センターでリーグNo.1の身体能力を誇っていたハワード。そのビッグマンの上から、183cmのポールが叩き込んだ。これは単なるハイライトではない。「サイズじゃない」「心で勝つ」という彼の哲学を象徴するプレーだった。
このプレーは、後年になっても語り継がれる名場面のひとつだが、あの瞬間を生んだのは、恐れを知らないマインドと、実は優れた身体能力の融合だった。
“派手さ”ではない、“正確さ”こそが信頼を生む
クリス・ポールは、ハイライトリールに出続けるタイプの選手じゃない。ド派手なトマホークやブザービーターで話題をさらうわけでもない。
だが、彼がコートに立てば、試合のテンポが整う。ターンオーバーは減り、チーム全体の得点効率が上がる。
彼の強さは、“派手さ”よりも“正確さ”、そして“信頼性”にある。
パスの精度、ディフェンスのヘルプ意識、終盤のゲームメイク──どれを取っても、ルーキーとは思えない完成度だった。
ルーキーにして“完成された選手”の片鱗
普通、NBAの新人には“荒削り”という言葉がつきまとう。だが、クリス・ポールにはそれがなかった。
もちろん伸びしろはあった。でも、既に「今すぐ勝てる選手」だった。バスケットボールという競技を誰よりも理解し、誰よりも正確に遂行する能力を持っていた。そういう意味で、彼は“完成されたルーキー”だった。
これが後の10度以上のオールスター選出、5度のアシスト王、6度のスティール王、そして“史上最高のPGの一人”という評価へとつながっていく。
まとめ:ルーキーの域を超えた司令塔
クリス・ポールは「新人王にふさわしい選手だった」というより、「ルーキーという概念を飛び越えた存在」だった。
183cmの体に詰め込まれたバスケットボールIQ、集中力、そして冷静な判断力──それがNBAのゲームを変えるほどの影響を及ぼした。
「ドワイト・ハワードの上からダンクした」という事実すら、彼にとっては“キャリアのごく一部”でしかない。
彼の真の価値は、“勝てるチームを作れるガード”であること。新人王受賞は、その第一章に過ぎなかった…。
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