92-NBAオールスター2010
NBAオールスター2010から見る“アイソ・ジョー”の存在感
2010年、ダラスのカウボーイズ・スタジアムで開催されたNBAオールスター。歴代最多観客数となる10万8713人が詰めかけたこの舞台は、スーパースターたちの見せ場が連続する華やかな祭典だった。そんな中で、スターの影に隠れつつも確かな存在感を放っていたのが、EASTの2番、ジョー・ジョンソン。彼は“アイソ・ジョー”という異名を持つ1on1マスターであり、独特のプレースタイルでファンを魅了した。
“アイソ・ジョー”というプレイヤー
ジョー・ジョンソンの代名詞は、やはりアイソレーションからの得点力。いわゆる“アイソ・ジョー”の愛称は、彼が自らのドリブルでディフェンスを翻弄し、最後まで自分でフィニッシュするスタイルから来ている。
ウィングでボールを受け、じっくりと相手の間合いを見極める。そしてクロスオーバー、スピン、ステップバック、時にはポストアップ。あらゆる技術を組み合わせ、ドライブから3Pまで多彩なフィニッシュパターンを持っていた。
この「1on1の幅広さ」が、彼をリーグ屈指のスコアラーに押し上げた。アシストを多く必要とせず、自らオフェンスを完結できる能力は、プレーオフのようなタフな試合で真価を発揮する武器だった。
ホークスのエースとしての輝き
アトランタ・ホークスでエースを張ったジョンソンは、2005-06シーズンから6年連続でオールスターに選出される安定感を誇った。特に2006-07シーズンから2011-12シーズンにかけては、平均20点超えが当たり前というスコアリングぶり。
2009-10シーズンも平均20.9点、4.9アシストを記録。単なる得点屋ではなく、味方を生かすプレーメイカーとしても機能できたのが彼の強みだった。
ホークスはこの時期、ジョンソンを中心にジョシュ・スミス、アル・ホーフォード、マイク・ビビーらを揃え、イーストの上位常連チームへと成長。2008年から2012年にかけて5年連続でプレーオフに進出し、かつての低迷期を完全に抜け出した。
ハンドリングの妙技と“アンクル・ブレイク”伝説
ジョー・ジョンソンの1on1を語る上で欠かせないのが、彼のハンドリングだ。単にボールを操るのがうまいだけではない。相手の体重移動を一瞬で逆に持っていく「間」の作り方、そしてその後のシュートモーションへの滑らかな移行が芸術的だった。
特に有名なのは、ポール・ピアースを跪かせた細かいタッチのアンクル・ブレイク。細かい左右のクロスオーバーから一瞬のストップ、そこから爆発的な切り返し。ピアースの重心が崩れた瞬間、ジョンソンはステップバックで距離を取り、スムーズにジャンパーを沈めた。このプレーは今でもYouTubeで「Joe Johnson ankle breaker」と検索すれば簡単に見つかる名場面だ。
2010年オールスターでの立ち位置
2010年のオールスターは、ドウェイン・ウェイドがMVPを獲得し、レブロン、コービー、メロ、シャックといった派手な名前が並んだ大会だった。その中でジョンソンは、スターたちの華やかさに飲まれることなく、自分の持ち味を発揮。多くの得点や派手なダンクはなかったが、彼がコートにいるときはボールが落ち着き、アイソから確実に得点へとつなげられる安心感があった。
同年のWEST勢 ― クリス・ケイマンとジェラルド・ウォレス
2010年のオールスターでは、普段あまり脚光を浴びない選手たちも注目を集めた。
まずはクリス・ケイマン。ロサンゼルス・クリッパーズのセンターとして、この年はキャリアハイのシーズンを送っていた。当時のクリッパーズは「弱小」の代名詞だったが、ケイマンは平均18.5点、9.3リバウンドを記録し、チームのインサイドを支えていた。ポストでのソフトタッチと確実なミドルレンジは、典型的なオールドスクールセンターの香りを漂わせた。
そしてジェラルド・ウォレス。シャーロット・ボブキャッツの主力として、この年はチーム史上初のプレーオフ進出争いを繰り広げていた。ウォレスは平均18.2点、10リバウンド、2スティールを記録するオールラウンドプレイヤーで、ディフェンスでの献身性と驚異的な身体能力が光った。特にブロックとスティールを同時に量産できるウィングは当時でも貴重で、“Crash”というニックネームが示す通り、体を投げ出すプレーを厭わなかった。
“スーパースター”以外の輝き
オールスターというと、どうしてもレブロンやコービーのような顔役が主役になる。しかし2010年は、ジョー・ジョンソンやジェラルド・ウォレスのような「地味だけど確実にチームを強くする選手たち」が大舞台で評価された象徴的な年だった。
特にジョンソンは、オールスターというスポットライトの下でも、自分のスタイルを変えず、アイソレーションから淡々と得点を重ねる姿が印象的だった。派手さはないが、相手にとっては最も嫌なタイプのスコアラー――それが“アイソ・ジョー”の真骨頂だった。
その後のジョー・ジョンソン
ジョンソンはホークス後もネッツ、ヒート、ジャズなどで活躍し、キャリア通算2万点を超えるスコアを記録。2017-18シーズンを最後にNBAを離れたが、その後はBIG3リーグでもMVPを獲得し、40歳を過ぎても現役としてプレーするなど、バスケ愛と高い技術力を証明し続けている。
もしこの2010年シーズンを見返すなら、派手なダンクやアリウープだけじゃなく、ジョー・ジョンソンのアイソレーションからの冷静なフィニッシュ、ケイマンのミドル、ウォレスの全力ディフェンスにも注目してほしい。そこには“スーパースター以外”の、確かなNBAの魅力が詰まっているからだ。
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