NBAポスターコラム68:パスで試合を支配する能力に長けたポイントガード、ジェイソン・キッド。

NBAポスターコラム

68-ジェイソン・キッド

ジェイソン・キッドが“ただのパサー”で終わらなかった理由

ジェイソン・キッド。NBAの歴史を振り返ったとき、「アシスト王」でも「Mr.トリプルダブル」以外でも、彼の名前が語り継がれるのには理由がある。彼は数字の表面だけで語られるタイプの選手ではなく、「勝利に必要なことは何か?」を突き詰め、実行し、証明してきた存在だ。キッドの真価は“自身が点を取らずに勝たせる”という、いわばバスケの裏街道を極めたことにある。

得点しない司令塔、それでも勝てる理由

キッドのキャリア平均得点は12.6点。数字だけ見れば平凡だ。が、それは「点を取ることを最優先しなかった」結果に過ぎない。彼が磨き上げたのは、味方を活かすパス、試合の流れを読む頭脳、ディフェンスの読み、そしてリーダーシップ。それらすべてが彼の“点を取らないという選択”を成立させていた。

特にアシストに関しては、キャリア通算1万2,091本。歴代3位の記録を保持しており、その多くが“流れの中で自然に生まれた”ものだ。ピック&ロールだけではなく、速攻、ハーフコート、ドライブキック、何でもござれ。ゲームを読む力と展開力は、ジョン・ストックトンと並ぶ域に達していた。

トリプルダブルが物語る万能性

キッドは通算107回のトリプルダブルを記録しており、これは歴代4位(執筆時点)という圧倒的な数字だ。ただし、ここで重要なのは“トリプルダブル”という形式的な達成よりも、その中身にある。

アシストとリバウンドを10本以上記録できるガードという存在自体が異常なのだ。身長193cmの彼が、センターやPFとリバウンドを競り合い、なおかつコートの端から端までパスを通し続けた。ガードでありながらリバウンダー、そしてゲームメイカーという三位一体のプレイヤーだった。

速攻の起点=リバウンダーとしての異能

キッドの速攻は、ただの「走って終わる速攻」ではない。彼自身がディフェンスリバウンドを奪い、ドリブルでプッシュしながら、欲しいタイミングで味方へピンポイントパスを通す。

このスタイルは、ナッシュやストックトンのような純粋なパサーには真似できない。自らリバウンドに絡み、起点となれる能力こそが、キッドを唯一無二にしていた。

勝利をもたらすリーダーシップ

キッドが真に評価されるべきポイントのひとつが“勝利への導き”だ。実際、彼がチームに加入した途端に勝率が急上昇するケースは数多くある。1996-97のサンズ、2001年のネッツ、そして2011年のマブス復帰時がその代表例。

特に2001年のネッツ加入後は象徴的だ。前年26勝だったチームがキッドの加入で52勝に倍増し、2年連続NBAファイナル進出を果たす。しかもシャック&コービーのレイカーズ、ダンカン&ロビンソンのスパーズといった“本物”にぶつかったからこその敗北であり、内容自体は決して悪くなかった。

彼はコート上でコーチのように振る舞い、若い選手たちに自信と判断を与え、チーム全体の成熟度を一段引き上げる存在だった。

マブス帰還と“第2の頂点”

キャリア晩年、キッドは2008年に古巣マブスへトレードされる。当時35歳を超え、全盛期のアスレティックな動きは鳴りを潜めていた。それでも“頭脳”は衰えない。むしろ時間とともに研ぎ澄まされ、若いダーク・ノビツキーやタイソン・チャンドラー、ショーン・マリオン、J.J.バレアらを見事にコントロールした。

2011年のファイナル、ビッグスリー擁するヒート(レブロン、ウェイド、ボッシュ)を撃破したマブスの勝因のひとつは間違いなくキッドの存在だ。彼の冷静な判断力と、スローなテンポの中でも勝てる戦術眼が光った。

数字に表れない貢献力

キッドの真価は、スタッツシートに表れない部分にも詰まっている。味方に「ここが空くぞ」と伝える声、ディフェンスのスイッチを的確に促す指示、タイムアウト中に立て直すマインドセット。これらは“チームに勝利をもたらすプレイヤー”にしかできない芸当だ。

また、彼の存在感は相手にも影響を与える。攻守にわたって試合のテンポを握るため、相手は常に自分のプレーが制限される。これはリーダーシップというより、もう“支配力”に近い。

スーパースターではなく、スーパープレイヤー

ジェイソン・キッドは、決して“華やか”な選手ではなかった。1試合50点も取らないし、豪快なダンクを決めることもない。だが彼は、どのチームでも中心となり、勝利を引き寄せる力を持っていた。

まさに「スーパースター」ではなく、「スーパープレイヤー」という言葉がふさわしい。そして、そんな選手こそがチームにとって本当に必要とされる存在なのだ。


まとめ

ジェイソン・キッドは、「PG兼オールラウンダー」という型破りなスタイルでNBAに革命を起こした。アシスト、リバウンド、ディフェンス、そしてリーダーシップ。そのすべてが揃った選手であり、「バスケは点を取る以外にも支配できる」を体現したパイオニアだった。

派手ではないが、勝利という目的に最も忠実だった男。ジェイソン・キッドは、まさに“勝利請負人”という肩書きにふさわしい。

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