NBAポスターコラム38:「無冠の天才」クリス・ウェバー──なぜ彼の名は今も語り継がれるのか、、、。

NBAポスターコラム

38-クリス・ウェバー

歴代屈指のオールラウンドPF、クリス・ウェバーという才能

“ファブファイブ”の主役として時代を駆け抜けた男

1993年、アメリカの大学バスケットボール史において語り草となるチームがあった。ミシガン大学の“ファブファイブ”。レイ・ジャクソン、ジュワン・ハワード、ジェイレン・ローズ、ジミー・キング、そしてエースのクリス・ウェバー。5人全員が1年生、しかも黒人選手でスタメンを占めたインパクトは凄まじかった。

彼らのプレースタイルは攻撃的で、自己表現に満ち、バスケットボールという競技に新しい美学を持ち込んだ。短パンを長くし、靴下を黒に揃え、従来のカレッジ・バスケの堅苦しさを打ち破る象徴となった。

特にウェバーは、その中でも抜群の身体能力とバスケセンスを持つスーパースターだった。6フィート10インチ(約208cm)のサイズで、ボールハンドリングもパスセンスもずば抜けていた。NCAAファイナルでの“タイムアウト事件”の記憶が強烈に残っている人も多いだろう。残り時間少ない場面で、タイムアウトが残っていない状態にもかかわらず要求してしまい、テクニカルファウルによりミシガンは敗北した。

ワシントン時代:期待と試練の入り混じる序章

1993年、NBAドラフト全体1位指名でゴールデンステート・ウォリアーズに入団するも、1年目終了後にワシントン・ブレッツ(現ウィザーズ)にトレード。ここで彼は、元ファブファイブの相棒ジュワン・ハワードと再会する。華々しいスタートとは裏腹に、ウェバーのNBAキャリア序盤は決して順風満帆ではなかった。

チームはなかなか勝てず、自身もケガに悩まされる。それでも彼のポテンシャルは明らかだった。パワーフォワードながらスピンムーブで相手を翻弄し、視野の広さと正確なパスでゲームをクリエイト。さらに中距離ジャンパーやアリウープなど、得点パターンは多彩だった。パワーとテクニック、スピードを併せ持つ数少ないビッグマンだった。

サクラメント・キングス:才能が本格的に開花した黄金期

1998年、サクラメント・キングスへトレードされたことで、ウェバーのキャリアは一変する。ここで彼は、NBAでも最もエキサイティングなチームの中心となる。

ジェイソン・ウィリアムス、ヴラデ・ディバッツ、ペジャ・ストヤコヴィッチ、ダグ・クリスティ、そして後にマイク・ビビー。これほどの才能が集結したキングスは、パッシングゲームとスペーシングを極め、時代を先取りするようなバスケットを展開した。

そしてその中心にいたのがクリス・ウェバーだ。

ローポストからのフェイクとスピンムーブ、中距離のジャンパー、パス回しの起点としても機能し、ファーストブレイクにも参加する。ポイントフォワード的な役割まで果たせる存在は、当時のパワーフォワードとしては異色だった。

「マローンの次はウェバーだ」

この言葉は決して誇張ではない。当時のPFは、カール・マローン、ティム・ダンカン、ケビン・ガーネットといった怪物揃いだったが、その中でもウェバーのオールラウンドさは群を抜いていた。

プレイオフでの無念とレガシー

2002年のウェスタンカンファレンス・ファイナル。クリス・ウェバーとキングスは、シャキール・オニール&コービー・ブライアントを擁するロサンゼルス・レイカーズと死闘を繰り広げる。第6戦、第7戦の物議を醸す判定や、延長戦の末の敗北。キングスは最も優勝に近づいたシーズンを、無念の形で終えた。

ウェバー自身もプレイオフでの勝負弱さを指摘されることがあった。だが、それは彼一人の責任ではない。決してメンタルが弱かったわけでも、クラッチに消極的だったわけでもない。

むしろチームの司令塔として、献身的なプレーに徹していたからこそ、「最後はお前が撃て」というようなエゴを発揮しにくかったのだ。コービーやアイバーソンのように、自分のシュートで終わらせるスタイルとは違った。

その“賢すぎるがゆえの選択”が、皮肉にも彼を「勝者」として讃えにくくしてしまったのかもしれない。

パスのできるパワーフォワードという革命

クリス・ウェバーを語る上で外せないのが「ビッグマンなのに司令塔になれる」という特性だ。オフェンスの起点としてハイポストからパスを出すビッグマンは、現代ではヨキッチのように評価されているが、当時その先駆け的存在だったのがウェバーだ。

平均アシストはキャリア通算で4.2本。これは同時代のガーネットやマローンと比べても突出している。味方の動きを見て的確にボールを供給する能力は、彼の視野とIQの高さを物語っている。

また、ファーストブレイクにも参加する走力と柔軟性も持っていた。トランジションで味方に走り勝つパワーフォワードなど、当時はそういなかった。走って、捌いて、決める。その3拍子が揃ったウェバーは、今見ても“時代を先取りしすぎた男”と言える。

栄光と傷跡、殿堂入りまでの長い道のり

現役引退後、彼の殿堂入りはなかなか実現しなかった。理由の一つが、1993年のNCAAでのタイムアウト事件と、その後に発覚した金銭スキャンダル。もう一つは、NBAでの“優勝経験”の欠如だろう。

だが2021年、ようやくバスケットボール殿堂入りを果たす。ようやくだった。ファブファイブの仲間たちもその快挙を祝福した。

彼のキャリアは“無冠の天才”と語られがちだが、それは表層的すぎる。もし彼があと一歩、レイカーズ戦で勝っていれば、すべての評価が変わっていた。

そして今、NBAの中ではヨキッチ、サボニスといった「パスができるパワーフォワード/センター」が再評価されている時代だ。そのルーツを辿れば、間違いなくクリス・ウェバーの名前が浮かび上がるはずだ。


締め

優勝経験こそないが、“支配者”ではなく“創造者”として、ウェバーはバスケットを広げた。彼のようなビッグマンがいたからこそ、今の多様性あるNBAがある。クリス・ウェバーは、まぎれもなく歴代屈指のオールラウンダーだった。

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