129-ドゥエイン・ウェイド
ドゥエイン・ウェイドとステップスルーの芸術
ドゥエイン・ウェイドといえば、クラッチタイムの得点力やブロックショットの多さが語られることが多い。ただ、それ以上に“技術”の側面で象徴的だったのがステップスルーだ。ウェイドは「ステップスルーは自然にできた」と豪語していたが、その自然さの裏には、身体能力と技術の融合があった。この記事では、ウェイドがNBA屈指のステップスルーの使い手と評された理由を、細かく解説していく。
ステップスルーとは何か?
まず基本を整理しておく。ステップスルーとは、ペイント内でディフェンダーを揺さぶり、フェイクを入れたあとに踏み込み、反対側の足を運んで抜き去る技術。単純に見えるが、1歩目の踏み込み方、2歩目の角度、そして上半身のバランス維持が肝になる。
多くの選手は1歩目を外に逃がしがちで、スペースを作ることに集中する。だがウェイドは逆だった。あえて相手の近くに踏み込み、ディフェンダーをロックするような動きを選んだ。そこからストライドの広さを活かして一気に抜き去る。この“懐に飛び込む”感覚が、ウェイドのステップスルーを特別なものにした。
1歩目の芸術 ― 相手の近くに踏み込む
ウェイドが語っていた「自然さ」は、実は意識の高さからくるものだった。彼は最初の一歩を、相手ディフェンダーの重心にぶつけるように踏み込んでいた。これによりディフェンダーは「当たりに反応するか」「フェイクに釣られるか」の二択を迫られる。
例えば、相手がカットを狙って手を伸ばしてきても、ウェイドの最初の一歩は相手のレンジを封じる。結果として、相手はウェイドの動きに後手を踏むしかなくなる。NBAのトップクラスのディフェンダーでさえ、1歩目の圧力で動きを制限されていたのだ。
ストライドの広さと2歩目の鋭さ
ウェイドのもうひとつの武器は、圧倒的なストライドの広さだった。通常のステップスルーは「かわす」イメージが強いが、ウェイドの場合は「突き抜ける」イメージだった。
2歩目を置いた瞬間には、ディフェンダーの体がすでに背後にある。リムまでの距離を一気に縮めることで、ヘルプディフェンスが寄る前にシュートに持ち込める。守備には定評のあるケビン・ガーネットでさえ、この2歩目のスピードと角度に後手を踏んだ。ウェイドが「KGを躱したステップスルーは芸術だった」と語られる所以はここにある。
上体を起こしたままの安定感
方向転換の最中にバランスを崩す選手は多い。特に大きなストライドをとると、どうしても上半身が前に突っ込みやすくなる。だがウェイドは違った。彼は常に上体を起こしたまま、体幹で支えていた。
この姿勢の維持は、単にシュート体勢に入りやすいだけではない。ファウルをもらう準備にも直結していた。上体が起きていることで、コンタクトを受けたときに「シュートモーション」に見せやすい。結果として、ウェイドはフリースローを量産することにも成功した。実際、キャリア平均で1試合あたり6.6本のフリースロー試投数を誇っているが、その多くはステップスルーやドライブからの接触によるものだ。
「自然にできた」という言葉の裏側
ウェイドは「ステップスルーは自然にできた」と語っていた。だが、その自然さは長年の習慣から生まれたものだった。彼は若い頃からストリートバスケで身体能力に頼らず、相手をかわす技術を磨いていた。その延長線上にNBAでのステップスルーがあった。
一方で、NBAのフィジカルな世界では「自然」だけでは通用しない。相手は200cmを超える巨体で、横移動の速さも桁違い。そこでウェイドは、最初の一歩の踏み込み、ストライドの幅、体幹の強さといった要素を組み合わせ、誰も止められないステップスルーに昇華させたのだ。
ステップスルーが生んだ得点パターン
ウェイドのキャリア通算得点は23,165点。フィールドゴール成功率は48.0%に達するが、この高効率の背景にステップスルーがあった。単なるジャンプシュートやアイソレーションではなく、ステップスルーを混ぜることで相手に守りづらさを与えた。
・ジャンプシュートと組み合わせることで、相手は飛び込みを恐れて間合いを取らざるを得ない
・ドライブからステップスルーに入ることで、ブロック狙いのビッグマンを無力化
・接触を利用してフリースローを稼ぎつつ得点を積み重ねる
ウェイドはまさに「解決法の多さ」で相手を圧倒した。ステップスルーはその中核を担っていた。
ステップスルーと“フラッシュ”の象徴
ウェイドのニックネーム「フラッシュ」はスピードと切れ味を示すものだが、ステップスルーの動きにもその片鱗が見える。フラッシュの名にふさわしく、瞬間的に視界から消えるような動き。相手ディフェンダーからすれば「気づいたときには背後にいる」という感覚だっただろう。
ステップスルーはウェイドのプレースタイルそのものを象徴する。派手さよりも実用性、だがその実用性が積み重なることで芸術の域に達していた。
まとめ
ドゥエイン・ウェイドのステップスルーは、ただの技術ではなかった。
・相手の懐に踏み込む1歩目
・広大なストライドで抜き去る2歩目
・上体を起こしたままの安定感
・フリースロー獲得につながる身体の使い方
これらすべてが組み合わさり、“自然にできた”と言い切れるほど完成されたものになった。KGを置き去りにした芸術的なプレーは、その象徴だ。
ウェイドを語るとき、タイトルやスタッツだけでなく、このステップスルーの美しさを忘れてはいけない。あれこそが、彼を「フラッシュ」と呼ぶにふさわしい所以だった。
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