108-ドゥエイン・ウェイド
ドゥエイン・ウェイド――「一瞬で消える」男の真実
コービーが語った“消える”感覚
「DWYANE WADE WOULD JUST VANISH.」
コービー・ブライアントがそう語ったのは、ウェイドと対峙したときの体感だった。コート上でウェイドは、DFの視界から一瞬にして消える。気づけばリング下に潜り込み、シュートを決めている。まさに“フラッシュ”の異名そのままの存在感だった。
NBAの世界で“消える”なんて表現が似合う選手はそう多くない。マグレディのスムーズさや、アイバーソンのクロスオーバーも“抜ける”という感覚に近いが、ウェイドの場合は“突然視界から消える”という次元の違う表現がぴったりだった。コービーほどのディフェンダーでさえそう感じたのだから、その特殊性は際立っていた。
果敢なドライブとフリースローの量産
ウェイドのキャリアを象徴するのは、ゴール下へのアタックだ。サイズは193cmとNBAのSGとしては標準的、むしろ小柄な部類だが、抜群の加速力とフィニッシュ力でゴールへ突っ込む。ファウルを恐れずに体をぶつけ、倒れ込みながらシュートを放つ姿は日常茶飯事。結果として、彼は常にリーグ屈指のフリースロー試投数を稼いでいた。
2008-09シーズンには平均30.2得点で得点王を獲得。3Pが苦手なスコアラーが得点王に輝くのは異例だ。それは裏を返せば、ドライブと中距離、フリースローだけで30点を稼ぎ切る能力があったということ。ディフェンスが分かっていても止められなかった理由は、“消える”ように間合いを外し、空間を見つけるスキルにあった。
マーケット大学時代――“NBAでは通用しない”という評価
そんなウェイドも、大学時代は決して満点評価ではなかった。マーケット大学時代、彼の爆発力は確かに魅力的だったが、当時のスカウトの一部は「アウトサイドシュートが不十分」「現代NBAで通用するには外角が弱すぎる」と断じていた。
この評価は冷静に見れば間違っていない。NBAはアウトサイドがモノを言う世界で、シューターやレンジの広さが評価基準のひとつだった。ウェイドのジャンパーは決して安定していたわけではなく、プロジェクションだけで見れば“不安要素”だった。だから「NBAでは大成しない」と切り捨てたスカウトの目は、ある意味で“正しかった”とも言える。
常識を超える存在
ただ現実は、そうした“不安要素”を凌駕する圧倒的な実力があった。
ウェイドは常識を超えた。アウトサイドが完璧でなくても、コートで相手を支配する術を見つけ出した。ディフェンスを切り裂く瞬発力、倒されても決め切る体幹の強さ、リーダーシップと勝負強さ。2006年のNBAファイナルでは平均34.7得点を叩き出し、ヒートを初優勝に導く。あの時点で「通用しない」という懸念はすべて吹き飛んだ。
NBAは数値と理論で語られがちだが、ウェイドはその常識の隙間に生きた選手だった。身体能力と技術の掛け算で、理論上の“不足”を補い、結果として歴史に名を残す存在になった。
コービーとウェイドの関係性
コービーがウェイドを認めていたことは有名だ。二人はオリンピックでも共闘し、練習中の激しい1on1は伝説となっている。ウェイドの消えるようなドライブは、コービーにとっても刺激だっただろうし、逆にウェイドにとってコービーは理想のライバルであり師匠でもあった。
ウェイドはレブロンやボッシュと“ビッグ3”を形成してからも、コービーから学んだ勝負への執念を忘れなかった。その姿勢が、マイアミ・ヒートの文化に“ハードワーク”を刻みつけたのは間違いない。
得点王とキャリアのピーク
得点王を獲得した2008-09シーズンのウェイドは、まさに全盛期だった。平均30点超え、アシストとリバウンドもこなすオールラウンドな数字。だが、レブロンやコービーに比べればサイズ的に不利で、キャリアのピークは短かった。膝の負担、度重なる怪我。それでも、短期間に凝縮された輝きは強烈で、NBA史におけるインパクトは非常に大きい。
“シュート力不足”を逆手に取ったプレースタイル
ウェイドがアウトサイドの安定感に欠けていたのは事実だが、それが逆にディフェンスを混乱させた。相手はドライブを恐れて下がるか、あるいは詰めて止めに行くかの選択を迫られる。ウェイドはその隙を逃さなかった。中距離のステップバック、ポストアップからのターンアラウンド。多彩な選択肢を持ち、どちらに転んでも相手を苦しめた。
つまり、“弱点”を隠すのではなく、強みを徹底的に磨き上げることで、弱点ごと相手を飲み込むスタイルだった。
結論――常識を超えたフラッシュ
結局のところ、マーケット大学時代に言われた「通用しない」という評価は正しかったかもしれない。普通の選手ならそうだったはずだ。だがウェイドは普通じゃなかった。
彼は常識をねじ伏せ、NBAで3度の優勝、ファイナルMVP、そして殿堂入りへと駆け抜けた。
コービーが「消える」と評したそのプレーは、今なおファンの記憶に鮮明に焼き付いている。
ウェイドは、常識を超えた“フラッシュ”として永遠に語り継がれるだろう。
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